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 幼い頃から、教会は廃墟と同意だった。
およそ100年、三国の連合から誕生したこの国が真っ先に行ったのが、信教の廃止だったからだ。
当時こそいろいろな運動が起こったらしいが、時は全てを解決した。今では、街に一つはある廃屋という見解を大多数が持っている。
だから入所許可を申請すると、町長はおかしそうな表情をした。
「入所許可? そんなものないよ。好きにすればいい。残ってた貴重品は全部盗まれちゃってるし、面白いものはないと思うけどね」
頭をかきながら、優しそうな町長は言った。その後に同じ表情で、あちこち崩れていて危ないから注意してね、とも付け加えた。

「よかったな。人のよさそうな奴で。」
道を、二人の旅人が歩いていた。
一人は、青い短髪に漆黒色の目を持つ青年。目つきも口を悪く、実に喧嘩っ早そうな雰囲気をしている。腰に下げた黒い鞘の刀が印象的だ。
「ですね。前の街では火事場泥棒と間違えられて、危うく御用になるとこでしたし。」
もう一人は、翡翠色をした肩までの長髪に青い目という、非常に目を引く姿をしていた。すれ違う人は彼を見ずにいられないし、見てしまうとその美しさに目が離せなくなる。性別を特定しがたい中性的な美青年だった。言うや浮かんでくる苦い思い出に、軽く顔をしかめる。
「あれは大変だったな。しかも、結局教会には入れなかった。」
ガイヤ=リジストとティファ=スピネル。二人はあてもなくただ、この東へレナ大陸を旅している。教会巡りというのもなんとなくの目的であり、それ以上の深い意味は無い。考古学者も探求を止めた、忘れられた過去の遺産だ。
やがて、教会に辿りつく。二人の旅人は、足を止め、見上げた。
「・・・こりゃ、すごいな。」
ガイヤは恐る恐る口をあけた。その建物は声を失うほどに、大きい。
「今までで一番立派ですね。しかし、これは・・・」
ティファは驚きと同時に、表情を曇らせた。酷い、という言葉を飲み込む。
石造りの教会は完全なる廃墟となっており、明らかに朽壊からではない横穴があちこちに開いていた。横穴からは内部が覗け、誰かが投棄したゴミも散乱している。
「・・・本当は早く壊したいが、国から金も出ないし、仕方ないなぁってとこか。」
ガイヤがぽつりとつぶやいた。二人はゆっくりと、倒壊した石門をくぐる。見回しても、特に目に留まるものは無い。建物は崩れてはいるものの、まだ原型を残してはいた。ダイニングのような場所を抜け、大広間へ。大きな教壇の付近まで来ると、ガイヤが何かに気づいた。
「ティファ。ここ、二階がある。」
石造りの階段だった。もはや倒壊し、一見では階段と判断できないが、たしかに二階へと続いていた痕跡がある。もしかしたら、隠し階段だったのかもしれない。
「本当ですね。登ってみますか・・・。」
次の瞬間、ふわりとティファは宙を飛んだ。魔力は誰にでもあるものだが、飛行魔法は高等呪文である。ティファは階段のその先を確認する。
「・・・部屋がありますね。結構、きれいに残ってます。どうします?」
「もちろん、行く。先登ってろ。」
ガイヤは崩れた階段に足をかけ、高さを確認する。おもむろに刀を鞘から抜くと、その美しい刀身を一瞥した。
「・・・悪い、師匠。」
がっ、と音を立て、倒壊した階段にその刃を突きたてる。そのまま腕で勢いをつけると、ガイヤは自分の身長の倍ほども跳躍した。空中で刀を抜き、半ばで足をかけてもう一度飛ぶ。そうして、二階へと到達した。
「力技。」
ため息混じりに言うティファに、
「うるさい。」
言い放ってガイヤは刀身を収めた。
二階はあまり荒れていなかった。わかりにくい場所にあったからか、それとも登りにくい場所にあったからか。しかし、金品の無いところを見ると、盗賊は入り込んだことがあるように見える。
「ああ。これだけは、持っていこうにも無理だったのでしょうね。」
ティファがそっとつぶやいた。なるほど、ガイヤもそれを見て頷く。
天井が少しだけ割れて、外の光が漏れ入る。目の前でその柔らかな光に照らされる、それは大壁画。部屋の壁一枚分が、そのまま壁画になっている。鮮やかな色彩の美しい壁画は、いまだ朽ちることなくそこにあった。描かれているのは、白い二人の男女。
「・・・『長きに渡る争いの歴史は、英雄の力により終焉へ導かれる』。」
彫られた古代文字を、ゆっくりとティファが読み上げた。
「英雄・・・・・・。」
英雄の伝説を、知らないわけは無い。
過去数100年前、二つの島国で起こった争い。その長い戦いに終止符を打ったのが、英雄の存在だといわれているのだ。二人の英雄は人間離れした魔力を持ち、魔法では引き起こせない奇跡を起こし、戦争を止めた。代償にその二つの島国は、英雄の力の前に完全に消え去ったわけだが。
「なんで英雄が『英雄』扱いなのか気に入らないんだよな。俺は。」
そんなにも強い力を持ちながら、破壊という短絡な方法でしか争いを止められない『英雄』。これを故郷で母親に教えられた時から、ガイヤはこの物語が好きにはなれないのだ。
「しかし、なんでこんなところに英雄の壁画が? 今までも教会は神を奉る場所だったように思うんですが・・・」
「さぁな。この部屋自体隠されてたみたいだし、なにか深い訳があるのかも。」
内容はともかく、絵はかなり良く出来ていた。こんなものが人の目にさらされることなく、ここで朽ちていくのを待つばかりと思うと少し悲しい。
「なぁ、少し時間くれる? 描いていきたい。」
言うが否や、ガイヤは道具を出し始めていた。描画用の木炭に、スケッチブック。これは彼が地図を描くために持っているものだ。
「・・・良いですよ。言い出したら聞きませんからね、ガイヤさんは。」
あまり気にする様子も無く、ティファは笑顔で了承した。




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