Oita Sound Creator 協会
2007年度 第2回研修会

― 星芝研究室 2007年度 夏季研修会 ―

日時2007/09/23(日) 13:00〜16:10
会場日本文理大学 情報センター(25号館)6階 CALL2教室
担当星芝貴行、岡崎温子
内容OISA主催第15回サウンズコンテストグランプリ作品「流れ星」(岡崎温子作曲)の制作ノウハウの紹介します。教室のPCを利用し、実際の作業を体験して頂きます。是非、普段使われているヘッドフォン(ステレオミニジャック)をご持参下さい。


トピックス


コンピュータミュージック作品制作の主な作業手順

第1段階 「作曲」   作曲家(Composer) ※MIDIデータの作成・入力
本来は、作曲して演奏家に「楽譜」を渡す作業です。 楽譜の出版社などで楽譜を制作する際にもコンピュータが非常によく使われますし、 作曲家自身がコンピュータを使って楽譜を制作しています。 良い作品は、やはり「楽譜」の段階でも良いものでなくてはなりません…。 今回の研修会では、この第1段階には着目せず、次の第2段階と第3段階について、詳しくお話したいと思います。

第2段階 「演奏」   演奏家(Player/Performer) ※MIDIデータの調整・作り込み
作曲家が制作した「楽譜」を「演奏」する段階です。 コンピュータの楽譜制作ソフトでも再生機能があるかと思いますが、 感情のこもっていない、機械的な演奏ではないでしょうか? 演奏家が楽譜を見て解釈し、情緒ある演奏を行うように、 コンピュータで機械的ではない、人間的な情緒ある演奏にしていかなければなりません。 そのためには、強弱(MIDIではベロシティ)やテンポを細かく制御したり、 楽器の演奏技法による音量や音色の違いも再現しなければなりません。 演奏家が幼少の頃から毎日練習をしてきたように?、 コンピュータ上の音符1つに、多くの情報を付加しなければ、 人が心地よいと感じる演奏にはならないでしょう。 例え名曲の「楽譜」も、演奏家によっては聞き苦しい「演奏」になりかねません。 (このことは、逆も言えるのではないでしょうか。)

第3段階 「録音」   音響技師(Recording Engineer) ※Audioデータでの作業
演奏家の「演奏」を「録音」し、CD等のメディアにする段階です。 綺麗な音で録音し、聴きやすくミキシングすることが必要です。 以前はミキサーやマルチトラックレコーダー等の専用の機材が必要とされていましたが、 コンピュータの処理速度が向上し、扱えるデータの容量も大幅にアップしたため、 この作業もコンピュータで行うことができるようになりました。 専用機器のコンピューター化も進んでおり、 ミキサーやマルチトラックレコーダーの内部が コンピュータ(CPUやメモリ、ハードディスクを持った機器)に変わりつつあります。 通常のコンピュータにソフトウェアをインストールし、 このような専用機器として使うことも多くなりました。 このようなソフトウェアをDigital Audio Workstationといい、 DAWソフトなどと呼ばれます。 以前、コンピュータミュージックのソフトウェアは DTM(Desk Top Music)ソフトと呼ばれていましたが、 近年ではDAWソフトと呼ばれることが多くなっています。

DTMにより音楽制作が手軽になった分、 コンピュータミュージック制作者の役割は上記の3つと、 作業は増えることとなっています。


グランプリ受賞作品「流れ星」の紹介

流れ星のメインメロディー(二胡)の譜面[PDF]

応募時の作品の解説より
雲のない空の夜に少女が一人、越えられない川の向こうに思いを馳せて、 二胡を弾くようなイメージで作った曲です。 せめて対岸まで届くよう、願いをこめて弾いた音を、星も静かに口ずさみます。 この曲では、昼の空の向こうの流星を、アマチュア無線を利用して音で観測する 「電波観測」からヒントを得て、流れ星の音を作り登場させました。 また、私自身は楽器の演奏はできませんが、 今回は自分なりに「演奏」と向きあって制作しました。

使用音源
楽器名製品名および音色名備考
二胡(アルフー)Kong Audio製 ChineeErHuソフト音源
笛子(ディーズ)Kong Audio製 ChineeWindsソフト音源
ベースYellow Tools製 Independence コントラバスソフト音源
ストリングスYellow Tools製 Independence ストリングスソフト音源
タムYellow Tools製 Independence タムドラムスソフト音源
Roland製 SD-90 琴ハード音源
シンセYellow Tools製 Independence クラシックシンセソフト音源
ガムランチャイムYellow Tools製 Independence ガムランチャイムソフト音源
エスノドラムYellow Tools製 Independence 和太鼓セットソフト音源
流星の効果音プログラミング言語Javaで生成した純粋な正弦波
オルゴールYAMAHA製 MU80 ミュージックボックスハード音源
大正琴Roland製 SD-90 大正琴ハード音源
リバースシンバルRoland製 SD-90 スタンダードドラムセットハード音源
ブックRoland製 SC-88Pro アジアセットハード音源
チャングRoland製 SC-88Pro アジアセットハード音源
ジンRoland製 SC-88Pro アジアセットハード音源
小型シンバルRoland製 SC-88Pro アジアセットハード音源
ゴング大Roland製 SC-88Pro アジアセットハード音源
ゴング小Roland製 SC-88Pro アジアセットハード音源
コーラスRoland製 SC-88Pro ステレオコーラスハード音源
研修会当日は各パートの音色を実際にお聞かせしました。

実施後のOISA NEWSのコメントより
第15回を迎えたサウンズコンテスト On The Computerは、 1月27日(土)に大分市の日本文理大学のピュアオーディオで大盛況のうちに開催されました。 全応募曲75曲の中から、予備審査を通過した16曲で本審査を行いましたが、 大変レベルの高い中での激戦となりました。 その激しい競争を勝ち抜き、見事グランプリに輝いたのは 大分市の岡崎温子さんの作品「流れ星」。 若々しい感性と女性らしい細やかな叙情性のマッチした、 素晴らしい出来栄えでした。


ハードウェア音源とソフトウェア音源

 ハードウェア音源ソフトウェア音源
記憶媒体ROM(IC)ハードディスク
メモリ容量数メガ〜数十メガバイト数百メガ〜数ギガバイト
メリット電源を入れてすぐに使用可能
発音に遅れがない
メモリ容量が大きいため
マルチ・サンプリングが可能
デメリットメモリ容量が小さい
マルチ・サンプリングが難しい
起動に時間がかかる
発音が遅れるため、
生演奏には使えない

コンピュータミュージックでソフトウェア音源を使うことのメリット

レスポンス(反応)が悪く、生演奏などには使えないソフトウェア音源ですが、大容量の記憶装置である『ハードディスク』を使用していることから、膨大な量のサンプリングが可能となり、非常にリアルな演奏表現が再現可能となりました。

 ○音の後半は波形をループ音が消えるまで全てサンプリング
 ○1つのサンプル音のピッチを上下『音程毎』にサンプリング
 ○1つのサンプル音の音量を上下『強弱毎』にサンプリング
 ○1つの奏法でサンプリング『奏法毎』にサンプリング


コンピュータによる演奏の表情付け

メインメロディーの音色は、中国の楽器の「二胡(アルフー,erhu)」です。 主人公の少女の感情を表現するため、二胡の優しい音色と力のこもった音色の両方を表現します。

  1. ハード音源「Roland製 SC-88Pro」の二胡を用い、強弱やテンポが一定の演奏 (第1段階)

    やわらかい音色、やる気のない演奏…。残念ながら今回のイメージには合いそうにありません。

      

  2. ソフト音源「Kong Audio製 MiniErHu」の二胡を用い、強弱やテンポが一定の演奏 (第1段階)

    良い感じの音色、まだ感情のこもった演奏にはなっていません。しかし音域が狭く、一部(リハーサルマーク[C]の冒頭)の音が出ていません。

      

  3. ソフト音源「Kong Audio製 ChineeErHu」の二胡を用い、強弱やテンポを変化させ、演奏方法を使い分けた演奏 (第2段階)

    テンポに変化を加え(特にリハーサルマーク[E]と[F]の部分はスローテンポに)、演奏方法によって音色を切り替え、ベロシティ(強弱)・エクスプレッション・ピッチベンドの変化を加え、感情のこめた演奏になりました。しかし、最後の音は音の長さが足りず、途中で切れてしまいました。

      

  4. 伸びが短かった最後の音を伸ばし、コンプレッサーで音のツブをそろえ、リバーブをかけた演奏 (仮第3段階)

    最後の音をサンプリングし、波形編集ソフトで切り貼りをして2倍近くの長さに延ばしました。奏法によってツブ(音量)が異なる部分を、コンプレッサーでそろえます。仮ですが、リバーブをかけて臨場感を出してみます。

      


ChineeErHuの制御画面:上部の「ErHu Legato 1」の部分で奏法を切り替える。


YAMAHA SOL2のソフトシンセラック:使用する奏法の数だけ、ChineeErHuを起動する。


YAMAHA SOL2のトラックビュー:1つのトラックが1つの奏法となっている。
今回の二胡では11の奏法を使ったため、上の図の11トラックで1つの二胡となっている。


Kong Auido製フリー版の二胡と笛子をつかった制作体験

今回、制作途中で利用した、フリー版のソフトウェア音源を使ってみましょう。

近年のソフトウェア音源は、VSTiという規格が用いられています。VSTとは、Virtual Studio Technologyの略で、スタインバーグ社が開発した、エフェクターとソフトウェア音源の音楽ソフト・プラグインの規格です。特に、ソフトウェア音源の場合には、instrumentのiをつけて、VSTiといいます。 VSTやVSTi規格のプラグインは、使用しているシーケンスソフトがインストールされているフォルダの中の、「Vstplugins」の中に置くことで、使えるようになります。YAMAHA SOL2もVSTに対応しているシーケンスソフトです。SOL1は対応していません。プラグインをのせるソフトのことをホストアプリケーションといいます。

Kong Audioのページ:http://www.chineekong.com/から、「Mini_ErHu.rar」と「Mini_DiZi.rar」をダウンロードして、 「C:\Program Files\YAMAHA\Vstplugins」(マイコンピュータのCドライブのProgram Filesの中のYAMAHAの中のVstpluginsフォルダ)に展開する使用できるようになります。 インストールが終わったら、SOL2を起動し、「表示」から「ソフトシンセラック」を開き、追加ボタンで「Mini_ErHu」や「Mini_DiZi」を追加してみましょう。 MIDIトラックのポートを切り替えると、これらのソフトウェア音源が使えるようになります。

※研修会当日は、「流れ星」のデータでSOL2での作業を体験して頂きました。


流星をイメージする効果音のJavaによる作成

  1. ヒントにした「流星の電波観測」に関するNHKニュース番組での紹介

      ※研修会当日は、ビデオ映像で紹介しました。

  2. プログラミング言語Javaによって合成した音

      

  3. ソフトウェアサンプラーを用い、メロディーに合わせて音程を変化させた音列

      

  4. 流星の尾をイメージした音を加え、リバーブをかけた音

      

最終的にはパン(音の定位)を左右に移動させました。しかしながら、純粋な音(倍音の少ない単純な音)は、パンを動かしても人の耳にはあまり動いているように感じません。少し前の携帯電話などで、着メロが鳴っているにもかかわらず、どこで鳴っているのか探したことはありませんか? そこで、純粋なサイン波による「流星の流れる直線的なイメージ」の音のほかに、その後ろに「瞬く星屑をイメージする音」を追加して、音の動きがわかるようにしています。


フリー版のVSTiサンプラーを使った体験

VSTiのフリーのサンプラーは多く存在しますが、ここでは「流れ星」でも使用した、EGG Audio ProjectのNN-29(beta ver.3c)を紹介します。 (残念ながら、このソフトの開発は終わってしまったようです。フリーのソフトは、プログラマーの趣味?のようなもので、飽きてしまうと突然、開発やバージョンアップが終わってしまう、ということが少なくありません…。)

下記のファイルをダウンロードして、実行し、SOL2にインストール(C:\Program Files\YAMAHA\Vstplugins)して、使ってみましょう。(インストールの際、SOL2は終了させておいて下さい。)

インストールができたら、SOL2を起動し、ソフトシンセラックで「nn29BETA_v3c」を追加し、「edit」ボタンでNN-29のコントロールパネルを開きます。ファイルを選択するボタンを押して、Waveファイルを指定し、鍵盤を押してみましょう。読み込んだファイルが音階となって、聞こえるはずです。


SOL2でソフトウェアDAWを体験

「流れ星」では、ハードウェアの音源も、ソフトウェアの音源も、さらにプログラムで合成した音も使っています。 これらの音を最終的に合わせた(ミキシングした)のは、下のRoland製のDAWである「VS-2480CD」です。 ハードウェア音源の音は、通常のレコーディングの方法(DAWをマスター、SOL2をスレーブとして同期させ、SC-88Proを鳴らしながらレコーディング)で行いました。 ソフトウェア音源の音とプログラムによる合成音は、SOL2で仮のミックスダウンを行いWaveデータを作り、CD-Rを経由してVS-2480CDのトラックに読み込み(インポート)ました。 生演奏には向かないソフトウェア音源ですが、このような方法を用いることで、タイミングなどがずれることなく、ミキシングができます。


Roland VS-2480CD

ミキシング(第3段階)での作業は、非常に多くありますが、 ここでは、コンプレッサーとイコライザーのお話を少ししたいと思います。

DAWでのミキシングですが、処理速度や音質に不満がありますが、 SOL2でも行うことができます。 すべての音をWaveデータで準備してありますので、 「流れ星」でのミキシングを、SOL2で体験してみて下さい。 用意したデータでは、コンプレッサーもイコライザーもリバーブも、オフの状態にしてあります。 このまま聞くと、メインの「二胡」が周囲の音につぶされていませんか? 「二胡」のフェーダーの音量を大きくして、他を下げればよいでしょうか?

ミキシングの作業は、単に「混ぜる」だけではありません。 ミキシングは「足し算」ではなく、ある意味「引き算」と言っていいかもしれません。 イコライザーでしっかりと音を引いてから、混ぜる作業をしましょう。

※研修会当日は、「流れ星」のデータでSOL2での作業を体験して頂きました。


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